P.F.ドラッカー『マネジメント 第6章』【要約】

‐第6章 企業とは何か まとめ‐

企業活動とはマーケティングイノベーションを通して顧客を創造すること。この解釈に従うと、企業のマネジメントは必然的に起業家的な性質を持つ。従って、経営陣は適応よりも創造に努めること。環境への受け身での対応ではなく、変革を志向するほどマネジメントに取り組む度合いは大きいといえる。また、成果を確かめるのには利益を測るほかない。社会に安心や恩恵をもたらす活動も利益によって賄われていることや、利益が企業の行動と意思決定の制約条件となる以上、利益の正当化に釈明など不要である。

 

本章からの抜粋は以下とした。

1. 企業は人によって生み出されマネジメントされる

・「マネジメントは市場の風向きにうまく順応するだけだ」という主張をしばしば耳にするが、これほど愚かしい考え方はないだろう。マネジメントは風向きを見極めるだけでなく、それをみずから左右しなくてはいけない。

・企業とは何かを問われれば、たいていの企業人は「利益をあげるために存在する組織」と答えるだろう。・・・(中略)・・・だが、この答えは誤っているばかりか、不適切である。・・・(中略)・・・それ自体が目的ではなく、むしろ企業とその活動を制約する条件だと言える。・・・(中略)・・・あらゆる企業にとっての第一の試金石は、利潤を最大化できるかどうかではなく、経済活動のリスクを補い損失を避けられるだけの、十分な利益を上げているかどうかである。

・社会に貢献するには、高い収益性の実現が欠かせない。率直に述べれば、破産した企業は働く先としてふさわしいとはいえず、近隣や地域社会の一員としても好ましくないだろう。

2. 企業の目的 ~ 販売からマーケティング

・企業の目的として妥当な中身はただひとつ、「顧客を生み出すこと」である。

・社会は、富を生み出すための資源を企業に託しているが、これは顧客のウォンツとニーズに応えさせるためなのだ。

・企業が顧客を生み出すことを目的としている以上、その主な役割はマーケティングイノベーションの二つに限られる。マーケティングイノベーションは成果をもたらすが、そのほかのすべてはコストしか生み出さない。

マーケティングは全社の柱をなす分野なのだ。企業全体を成果の最終的な到達点、つまりは顧客の視点から眺めたものがマーケティングなのである。従って、マーケティングへの関心や責任は、社内のすべての分野で共有しなければならない。

・「自分たちは何を売りたいか」ではなく、「お客様は何を買いたいと考えているか」と問い、「これが製品・サービスの用途です」ではなく「お客様が探し求め、重んじる満足がここにあります」と訴える。

・販売へのニーズは何かしら常にあるだろう。だが、マーケティングの狙いは、販売努力を不要にすることにある。

3. 企業は経済の成長と発展の申し子である

・経済が拡大して初めて、あるいは少なくとも、変化が自然なものとして受け入れられて初めて、企業は成り立つ。企業とは、成長、拡大、変化の申し子なのである。ここから、企業の第二の役割はイノベーションだといえる。

・最も実り多いイノベーションは、すでにあるものを改善するのではなく、従来とは違う製品やサービスを生み出し、新しい満足の可能性を開く。

・特筆するに値するのは、イノベーションは発明とは異なるという点である。技術ではなく、経済性の問題なのである。

・目的に沿って体系立ててイノベーションを実現するのは、個別の職能に閉じない全社の仕事である。加えて、マネジメントを担うすべての部門が、イノベーションに責任を負い、イノベーション目標を定めるべきだ。

イノベーションを定義すると、「より大きな富を創造できる新しい力に、人材や原材料を充てること」といえるだろう。

・このようにイノベーションは、経済を発展させるカギだといえる。経済を発展させるのは、起業家的な務めなのだ。

4. 富の創造につながる資源を最大限に活かす

・生産性とは、最小限の労力で最大限の算出を得るための、すべての生産要素の組み合わせを意味する。

・経済発展の原動力は、「頭脳形成」の速度である。・・・(中略)・・・重要なのは、業務の性質が、理論的な分析や概念的なプランニングは必然だが設備投資を伴わないものへと、がらりと変わったことによる効果である。

・労働から資本へ、労働と資本から知識へと比重が移ることにより、生産性にどのような影響が生じるかを測れるように、尺度を設けなくてはいけない。

5. 利益の役割

・利益は成果を確かめるのに役立つ。成果を確かめるのには利益を測るほかない。(利益の第一の役割。筆者追記)

・利益には第二の役割があり、これもまた第一の役割と同じくらい重要である。利益は、不確実性というリスクをとった褒美でもあるのだ。・・・(中略)・・・将来に関してただひとつ確かなのは、不確実性というリスクがあることだけだ。

・将来に向けてよりよい仕事を多くもたらすのは、利益だけである。・・・(中略)・・・最後に、保健・医療、国防、教育、オペラなど、実利的な安心や恩恵をもたらす活動も、利益によって賄われている。

・利益は経済や社会にとって必要なものであり、これに関しては釈明など不要である。・・・(中略)・・・百歩譲ったとしても、企業は最小限の利益を必要とする。将来のリスクに備えるための利益。事業を続け、富を生み出す能力を経営資源に保持させておくための利益。この必要最小限の利益が、企業の行動と意思決定に枠をはめる、あるいは、実行可能性を検証するといった作用をする。