‐第9章 戦略、目標、優先順位、仕事の割り振り まとめ‐
目標設定の土台となるのは、マーケティングとイノベーションである。他のすべての分野は、マーケティングとイノベーションの目標達成を支えることが行動目標となる。企業は以下の目標設定を必要とする。
これら七つの分野の目標について考え、答えを見つけたなら、ようやく「どれだけの利益が必要か」という収益性に関する問いに向き合うことになる。以上の目標群はバランスを必要とし、優先順位をつけ、それをもとに行動しなくてはならない。目標を検討する狙いは、組織の活力と経営資源を、適切な結果を生み出す活動に集中させることである。従って、行動につながらない限り、それらは目標ではないと認識すること。
本章からの抜粋は以下とした。
- 1. マーケティングとイノベーション ~ 市場での地位をめぐる判断
- 2. イノベーション目標
- 3. 経営資源の確保、活用、生産性 ~ 企業の社会的役割
- 4. 利益は必要であると同時に制約条件である ~ 制約要因としての収益性
- 5. 目標どうしの調和を図る ~ 予算策定の役割
- 6. 優先順位をつける ~ 目標をもとに行動する
1. マーケティングとイノベーション ~ 市場での地位をめぐる判断
・目標を設定するうえで土台となるのは、マーケティングとイノベーションである。企業が結果を出すのはこの二つの分野においてなのだ。・・・(中略)・・・他のすべての分野においては、マーケティングとイノベーションの目標達成を支えることが行動目標となる。
・マーケティング成果をあげるためには、以下のような諸項目について目標が必要になる。
- 既存の市場における既存の製品やサービス
- 製品、サービス、市場などにまつわる「過去」との決別
- 既存市場の新しい製品とサービス
- 新規市場
- 流通組織
- サービスの基準と成果
- 与信の基準と成果など
・目標が「戦略」であるのに対して、集中化をめぐる判断は「方針」である。・・・(中略)・・・この方針を定めない限り、かりに競争のルールはあったとしても、戦略、つまり狙いすました行動は取れるはずがない。
・どの分野に重点を置くかの判断は、決定的な意味を持つ。・・・(中略)・・・卓越した業績を上げる企業は、例外なく、どの分野に重点を置くべきかを考え抜き、結論を出してきたはずだ。
・大企業よりも小さい企業の方が、集中化の必要性は高いといえる。経営資源が限られている以上、分野を絞り込まないことには結果を出しようがないのだ。
・すべての企業が市場リーダーの座につけるわけではない。このため、どの市場セグメント、製品、サービス、価値においてリーダーを目指すべきか、判断しなくてはいけない。
・市場で目指すべきは、最大ではなく最適な地位である。そのためには、顧客、製品やサービス、市場セグメント、流通チャネルなどを入念に分析する必要がある。市場戦略と、多大なリスクを伴う決断も欠かせない。
2. イノベーション目標
・イノベーション目標とは、「何を事業にするべきか」の答えに沿って実務を進めるための目標である。あらゆる企業は主として三つのイノベーションに関わる。
・イノベーションは市場や顧客ニーズから生まれる。まさに「必要は発明の母」である。・・・(中略)・・・イノベーション目標を設定するうえでは、マネジメント層はまず、「マーケティング目標を達成するためには、どのようなイノベーションが必要か」を考えるべきである。
3. 経営資源の確保、活用、生産性 ~ 企業の社会的役割
・経営資源とその確保、活用、生産性をめぐっても、目標を立てる必要がある。・・・(中略)・・・経済活動はすべて、①自然の恵みである土地、②労働力すなわち人的資源、③将来への投資手段としての資本、の三種類の経営資源を必要とする。・・・(中略)・・・必要な人材や資本を引き付けられない企業は、長く存続できないだろう。
・人材と資本を確保するという二つの分野においては、純粋なマーケティング上の目標が欠かせない。
・「入手できるのはこれだけである。ここから最大限の便益を引き出すためには、どのような企業目指し、どのようにふるまわなくてはいけないだろうか」という発想も求められる。
・企業の仕事は経営資源から成果を生み出すことである。従って、企業はみな、土地、労働力、資本という三つの生産要素それぞれについて、そしてまた全体の生産性について、目標を必要とする。・・・(中略)・・・生産性こそ、経営陣にとってなによりの腕の見せ所なのである。
・カール・マルクスは、資本の生産性が低下するという前提に立ち、資本主義はいまにも衰退するだろうと自信満々に予測した。・・・(中略)・・・しかし、この予言はこれまでのところは当たっていない。なぜなら、わたしたちはイノベーションを成し遂げ、資本の生産性を高め、新しい業務プロセスや産業を生み出してきたからだ。
・生産性は、難しいがきわめて重要な概念である。生産性の目標がなければ、企業は進むべき方向性を持たないのと同じである。
・社会的役割は、企業にとって生き残りがかかった重要なテーマである。・・・(中略)・・・企業は社会と経済による創造物である。社会あるいは経済によって、一夜にして葬り去られかねない。企業は情けに支えられており、「必要性、有用性、生産性の高い仕事をしている」と社会や経済から認められないかぎり、存続できない。
4. 利益は必要であると同時に制約条件である ~ 制約要因としての収益性
・以上の分野の目標について十分に考え、答えを見つけたなら、ようやく「どれだけの利益が必要か」という問いに向き合うことになる。
・利益の社会・経済面での役割は以下のとおりである。
- 事業継続コストを賄うための「上乗せ利益」
- 将来の雇用を賄うための資本の源泉
- イノベーションと経済成長を後押しするための資本の源泉
・企業ニーズに適合した最小限の収益率は、資本コストに等しい。・・・(中略)・・・資本コストこそ、利益プランを立てる出発点として最適な水準なのだ。
・収益性は必要とされるだけでなく、制約要因でもある。実現できそうもない目標を設定してはいけないのだ。・・・(中略)・・・目標は、必要な収益率から逆算して立てるべきものなのだ。
5. 目標どうしの調和を図る ~ 予算策定の役割
・目標を設定するうえでは三種類の調和が求められる。
- 目標は手の届く収益率に沿っていなくてはならない
- 短期・長期両方の需要に沿っていなくてはならない
- 目標は互いに調和がとれていなくてはならず、・・・(中略)・・・うまくバランスさせる必要がある
・調和のとれた目標を設定するためには、主観を取り除いた表現が必要になる。そのための道具が予算、とりわけ管理支出と設備投資である。・・・(中略)・・・経営陣がコントロールできるのは、将来に向けた支出である。設備投資と管理支出には、リスクを伴う経営判断が反映される。
6. 優先順位をつける ~ 目標をもとに行動する
・何もかもうぃこなせる企業などありはしない。たとえ、資金があったとしても、優れた人材は常に不足しているだろう。
・最も避けるべきは、すべてに中途半端に手を広げようとすることである。何ひとつまともに成し遂げられずに終わるのは、目に見えている。
・優先順位をつけるのはリスクを伴う。優先順位がつけられなかった施策は、事実上は諦められたのと同じである。
・最後のステップがまだ残されている。目標が決まったら、それをもとに行動しなくてはならないのだ。・・・(中略)・・・目標をじっくり検討するのは、知識を蓄えるためではなく、行動するためである。狙いは、組織の活力と経営資源を、適切な結果を生み出す活動に集中させることである。・・・(中略)・・・行動につながらない限り、それは目標ではなく夢にすぎない。