‐第28章 何より大切なのは、害を及ぼさないこと まとめ‐
組織を柱とした多元的社会のリーダーは組織の奉仕者であると同時に、リーダー集団として社会から認められている。つまり、所属組織の利益と公益、両方に仕えなくてはいけない。この点こそ、組織を柱とした社会ならではの倫理課題がある。マネジャーが必要とする責任倫理として「あえて害を及ぼさない」があげられる。これを守るのは決して容易ではない。しかし、地味で慎み深いからこそ、マネジャーが必要とする責任倫理としてふさわしいルールと考えられる。
*第Ⅱ巻が完了しました。第Ⅲ巻はいよいよ本丸、マネジャーの務めについてです。
これからもよろしくお願いします。(筆者記)
本章からの抜粋は以下とした。
1. 企業人の倫理:誤った問い?
・企業や企業人の倫理をめぐっては、数えきれないほどの論説が世に出ている。だが、その大半は、ビジネスとも倫理ともまったく無縁である。・・・(中略)・・・ビジネスに特化した倫理などというものは存在せず、必要ともされていない。
・求められるのはただひとつ、企業エグゼクティブかどうかにかかわらず、誘惑に負けたものに厳しい罰を与えることである。
・顧客をもてなすためにコールガールを雇うという行いは、倫理ではなく美学や感性の問題である。「ひげを剃ろうとして鏡を見たら、そこにポン引きが写っていてもいいのか」ということが、ことの本質である。
2. リーダー層の一員ではあるがリーダーではない
・マネジャーに特有の倫理課題があるとすれば、その背景には、組織のマネジャーは全体として、組織を柱とした社会のリーダー層を形成している、という事情がある。ただし、各マネジャーを個人として見る場合は、あくまでも一人の企業人にすぎない。
・リーダー層を形成するひとりひとりのマネジャーに関しては、何が責任で、何が倫理なのだろうか。
3. 何より大切なのは、害を及ぼさないこと
・プロフェッショナルにとっての第一の責任は、二五〇〇年も前にギリシアの医師ヒポクラテスが、「ヒポクラテスの誓い」として明確に宣言した。ヒポクラテスは、「何より大切なのは、害を及ぼさないことだ」と述べたのである。
・マネジャー、とりわけ企業経営者がいまだに気づいていない、重要なことがらがある。自律性を求められ、私的な存在であることを許されるためには、職業倫理上の責任を自身に課さなくてはいけない、という点である。意図して害を及ぼすことがないように、みずからの言動を律するのが自分たちの務めなのだと、学ばなくてはいけない。
・マネジャー、特にアメリカのマネジャーは、以下に関して無意識のうちにルールを破る傾向がある。
- 幹部の報酬
- 従業員に「手かせ」をはめる目的での福利厚生プラン
- 利益についての大言壮語
・組織を柱とした多元的社会のリーダーは、これら組織の奉仕者なのだ。同時に彼らは、リーダー集団として社会から認められている。あるいは、社会から、主なリーダー層へと押し上げられるだろう。彼らは、所属組織の利益と公益、両方に仕えなくてはいけないのだ。
・最近では、社会的責任を宣言する際に「立派な見識」がしきりに叫ばれるが、それに比べて「あえて害を及ぼさない」はいかにも生ぬるいと思われるかもしれない。しかし、古の時代の医師が悟ったとおり、これを守るのは決して容易ではない。地味で深いからこそ、マネジャーが必要とする責任倫理としてふさわしいルールなのだ。
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