P.F.ドラッカー『マネジメント 第7章』【要約】

‐第7章 企業の目的と使命 まとめ‐

鋭い洞察に裏打ちされた明快かつ簡潔な理論を持つことが、企業を真の繁栄へを導く条件となる。そのためには、「自社の事業は何か、何であるべきか」という問いが必須となる。そして、使命と目的を明確に定めて初めて、現実的な目標群が浮かび上がり、これらを出発点にしてマネジメント層の仕事や組織を検討することが可能となる。

企業の使命と目的に関しての出発点となるのは唯一、顧客である。不合理な消費者などいないことを前提に、顧客の価値観、ウォンツ、現実を体系的に検討すること。将来の事業を考える際には、重要トレンドである人口動態や、市場の変化、自社によるイノベーションも考慮する必要がある。

新事業への参入を計画的に進めるのと同様、自社の目的や使命にそぐわなくなった事業、顧客に満足をもたらさなくなった事業、あるいは大きな貢献をしなくなった事業からの撤退も重要である。これらを下地として、以下の問いに答えていくこと。

  1. 「自社の事業は何か、何であるべきか」
  2. 「顧客は誰か」「顧客はどこにいるか」「顧客は何に対価を支払うのか」「何が顧客にとっての価値か」
  3. 「将来の事業は何だろうか。事業の特徴、使命、目的に大きな影響を与えそうな環境変化のうち、すでに起きているものは何か」「今の時点では、これらの予想内容を、事業についての理論、目標、戦略、仕事の割り振りなどにどう織り込むべきか」
  4. 「消費者のウォンツのうち、現状の製品やサービスでは満たされていないものは何か」
  5. 「何をこれからの事業にすべきだろうか」

 

本章からの抜粋は以下とした。

1. 事業についての理論

・鋭い洞察に裏打ちされた明快で簡潔な理論を携えていることこそ、企業を真の繁栄へを導く条件である。・・・(中略)・・・企業にとっては、事業についての理論を考え抜き、説明することが欠かせない。そのためには、目的と使命がはっきりと定まっていなくてはいけない。「自社の事業は何か、何であるべきか」という問いが必須なのである。

・事業についての理論を携えていてたとしても、その中身は古くなっていく。それも瞬く間に古びていく。このため、自社を支える基本概念が明快に、歯切れよく表現されていない限り、企業はその時々の出来事に翻弄される。

・使命と目的を明確に定めて初めて、現実的な目標がくっきりと浮かび上がってくる。その目標を土台にして優先順位、戦略、プラン、仕事の割り振りなどを決めると、これらを出発点にして、マネジメント層の仕事、さらにはその組織を検討できる。

2. 起業家にまつわる誤り

・過去の組織とはきわめて対照的に、今日の企業、さらには病院や政府機関などでは、事実上すべての階層に、優れた知識や技能を持つ人材が大勢揃っている。知識や技能の水準が高いと、その影響は、どのように仕事に取り組むかといった判断にも及ぶ。彼らは、正規の組織形態がどうであれ、必然的にリスクを伴う判断、つまりは事業判断を下す。

・このようにして、会社とその業績い影響を及ぼす判断を、最下層の近くまで含めて、あらゆる組織階層の人々が下すようになった。何を行い、何を避けるべきか。何を続け、何を止めるべきか。市場、製品、技術のうち、どれに力を入れ、どれを切り捨てるべきか。昨今では、これらのリスクを伴う判断を、高い肩書を持たない大勢の人々が日常的に下している。

3. 「自社の事業は何か」という難問

・「自社の事業は何か」はほぼ例外なく難問であり、たいていの場合、答えは決して明らかではない。

・「自社の事業は何か」という問いの答えを導くのは、経営トップが真っ先に果たすべき責務である。実際のところ、あるポストが経営トップの一角を占めるかどうかを知るには、そのポストに就く人間がこの問いに答えようと心を砕いているか、その責任を負っているか、探ってみればよい。・・・(中略)・・・もっとも、経営陣がこの問いを持ち出すことに二の足を踏むのも、理由がないわけではない。何より、これを持ち出すと意見の対立や議論が起こるのだ。・・・(中略)・・・答えは必ず、目標、戦略、組織、行動などの変化につながる。

・経営層のあいだに意見の食い違いがあった場合、それを表面化させるのがなぜ重要かといえば、唯一の正しい答えなど決して存在しないからである。・・・(中略)・・・「もっともらしいから」というだけで答えを出したり、速やかに、あるいは容易に答えを導いたりすることは、何としても避けなくてはいけない。

4. 意見よりも手法が重要

・企業の使命と目的に関しては、焦点あるいは出発点となるのは唯一、顧客だけである。顧客が事業のあり方を決めるのだ。

・しかし、顧客にとっては、どの製品やサービスも、もとよりどの企業も、大して重要ではない。エグゼクティブは、顧客は何時間もかけて自社製品について語り合っているはずだ、と思いがちである。だが、仲間どうしで洗濯物の白さを話題にしたことのある主婦など、果たしてどれだけいるだろうか。

・顧客にとって関心があるのは、自分の価値観、ウォンツ、現実だけである。

5. 顧客は誰か ~ 何が顧客にとっての価値か

・企業の目的と使命を考えるうえで真っ先に考えるべき必須の問いは、「顧客は誰か」である。・・・(中略)・・・「顧客はどこにいるか」という問いも重要である。・・・(中略)・・・次の問いは「顧客は何に対価を支払うのか」である。・・・(中略)・・・最後の問いは、「何が顧客にとっての価値か」である。

・不合理な消費者などいない。これは大切なルールである。顧客は、それぞれの現実と状況のもとで、必ずと言ってよいほど合理的に行動する。

・顧客は決して製品そのものを買い求めているのではない。間違いなく、ウォンツの満足を買っているのだ。

・さまざまな顧客が何に価値を見出すかは、あまりに複雑なテーマであり、答えられるのは当の顧客だけだろう。マネジャー層は、答えを推測しようとすらすべきではない。答えを体系的に追い求め、その一環として、必ず顧客にじかに問いかけるべきである。

6. 「自社の事業は何か」を問うべきタイミング

・「自社の事業は何か」が問われるのは、たいてい危機に瀕したときだろう。もちろん危機に陥ったなら、この問いかけは必須である。

・企業は産声を上げた時にはもう、「自社の事業は何か」を考えているべきである。成長への志を持つなら、なおさらだろう。

・業績が波に乗っている時こそ、「自社の事業は何か」と自らに問いかけなくてはいけない。・・・(中略)・・・実際のところ、事業が好調な間に「自社の事業は何か」を問わない経営層は、うぬぼれ、怠惰、傲慢などのそしりを免れない。栄光から一転、奈落の底へ落ちていく日も遠くないだろう。・・・(中略)・・・何よりもまず、目標を達成できた暁には、経営層は必ず「自社の事業は何か」を真剣に考えなくてはいけない。

7. 自社の将来の事業は何か ~ 埋もれたままの顧客ウォンツ

・「自社の事業は何か」という問いに非の打ちどころのない答えを見つけたとしても、その答えは早晩、時代遅れになる。・・・(中略)・・・合わせて次の問いかけも必要となる。「将来の事業は何だろうか。事業の特徴、使命、目的に大きな影響を与えそうな環境変化のうち、すでに起きているものは何か」「今の時点では、これらの予想内容を、事業についての理論、目標、戦略、仕事の割り振りなどにどう織り込むべきか」

・ここでもまた、出発点は市場、すなわち市場の可能性とトレンドである。・・・(中略)・・・最も重要なトレンドは人口動態だが、これに大きな注意を払う企業は皆無に近い。・・・(中略)・・・将来に関して、本当の意味での予測が成り立つのはただひとつ、人口の変化だけなのだ。

・なお、経営層は「消費者のウォンツのうち、現状の製品やサービスでは満たされていないものは何か」と自問すべきである。

8. 「何をこれからの事業にすべきだろうか」

・「何をこれからの事業にすべきだろうか」という問いも忘れてはならない。

・この問いを避けてとおる企業は、大きな事業機会を見逃すだろう。・・・(中略)・・・この問いに答えるうえでは、まずは社会、経済、市場の変化を考慮しなくてはいけないが、その次には当然ながら、自社によるイノベーションを考えに入れる必要がある。

・「当社の事業は何か」にとどまらず、「何をこれからの事業にすべきだろうか」と問うべき陰には、決して見過ごせない独特の理由がある。「不適切な事業規模」である。

9. 計画的な撤退や縮小の必要性

・新しい事業への参入を計画的に進めるのも重要だが、同じく、古い事業からの撤退についても、計画的に進めなくてはいけない。自社の目的や使命にそぐわなくなった事業、顧客に満足をもたらさなくなった事業、あるいは大きな貢献をしなくなった事業からの撤退である。

・これらの問い(有用性に関する問い。筆者追記)を真剣に、体系的に追及しない限り、そして、その答えを受けて経営層が行動を起こさない限り、「自社の事業は何か、今後は何が事業になるだろうか、何を事業にすべきだろうか」という問いに対しては、どう頑張ったところで、聞こえはよいがありきたりな答えしか出てこない。過去の成り行きを改めて言葉に表すことに、精力を使い果たすだけであろう。

・自社の目的や使命を定めるのは容易ではなく、痛みやリスクを伴う。しかし、目標を掲げ、戦略を決め、特定の分野に経営資源を集中し、事業を前に進めるためには、これが唯一の道である。マネジメント成果をあげるには、これ以外に道はない。