P.F.ドラッカー『マネジメント 第23章』【要約】

‐第23章 人材こそ最大の資産である まとめ‐

組織の目的は人材の強みをテコにして生産性を高め、弱みによる悪影響をかわすことにある。しかし、経営資源のなかで最も活用度が低いのが人材であり、人材の可能性はほとんど埋もれたまま仕事に活かされていない。経営者やマネジャーが人材マネジメントを超えて、リーダーシップを発揮していく要点としては以下を考えること。

(1)業務と働き手に責任を伴わせ、実績の上がる仕組みをつくること

(2)部下たちを、自分の「情報源」「知恵袋」として扱うこと

(3)適材適所を見極め、場違いを正すこと

 

本文からの引用は以下とした。

1. 威信と権力の混同 ~ 分権化の教訓

・これまでに紹介してきた手法について読んだり、学んだりした経営者は例外なく、「その通りだ」と言いたげにうなずくだろう。ところが、その中身を実地に活かしている人は一握りにすぎない。

・経営者が「働き手の達成意欲を満たす」という課題に正面から向き合おうとしないのは、主として権力と権威をうまく区別できていないからだろう。・・・(中略)・・・働き手に責任を持たせることは、自分たちの威信を手放すように思える。

・権力と威信はべつものである。経営層は権力を持たない。ただし、責任は負っている。そして、その責任を果たすという目的にかぎり、威信を必要とし、それをもたなくてはならない。

・「分権化はむしろ経営トップの力を強める」という理解が、経営者のあいだで広まっている。仕事を効果的に、より鮮やかにこなせるようになり、ひいては威信も高めるのだ。

・経営層の威信失墜を喰い止め、復権へと導くうえでは、トップ主導のもとで働き手に責任を与えることが欠かせない。威信が崩れれば、マネジメント層はうまく役割を果たせなくなり、ひいては組織も機能不全に陥りかねないのだ。

2. マネジメント層への要求

・二〇年ほど前、経営トップ層のあいだに分権化への反発が広まったが、これにはもうひとつ理由があった。分権化が進むと、それに応じて、経営トップへの要求水準が高まっていったのだ。

・責任を負わせておきながら、自分は涼しい顔をしていたのでは、意味がないばかりか、無責任である。

・いい加減な上司ほど、部下たちのモチベーションを削ぐものはない。働き手は上司に対して、自分たちが知恵を働かせて生産性を上げ、よい仕事をするためのお膳立てを期待し、求める。実際のところ働き手は、上司に真剣さと有能さを求める権利を持つ。

・とはいえ、完璧を期待しているのではない。上司も人間であるということは、彼らにもわかっている。だが、自分たちが仕事に責任を負う以上は、マネジャーに対しても、プランニング、目標の設定と優先順位づけ、課題の検討と基準の設定など、本来の役割を果たすように求める。そして何より、自分の仕事と成果に責任を負うよう、強く求めるのだ。

3. 人々を率いていく ~ 人事管理

・働き手に達成感を得させるためには、マネジャーは部下を、厄介ごとや費用の源として、あるいはなだめすかすべき相手としてではなく、経営資源としてみなす必要がある。人材の強みを引き出す責任を受け入れる必要がある。これはつまり、「人材のマネジメントする」という姿勢から抜け出して、「人材を率いていく」へと、発想を大きく転換するという意味である。

・人材マネジメントの分野では従来、三つのアプローチが取られている。

  1. 福祉的アプローチ
  2. 管理を主眼に置いたアプローチ
  3. 費用や驚異の源と捉えるアプローチ

・温情主義は、たとえどれほど成果をあげたとしても、人材をマネジメントするための手法とは言いがたい。あくまでも、人材を助けるための手法なのである。・・・(中略)・・・あくまでも急場しのぎの方策である。・・・(中略)・・・これをいつまでも使いつづけ、「究極の答えだ」などと勘違いすると、いずれ経営層と働き手、企業、経済、社会はみな、手足を縛られるだろう。

・人事管理を怠ってはいけない。これを怠ると、組織は深刻な機能不全に陥る。

・人材マネジメントの本質は、人材への対処に失敗した場合に、その始末をつけることにある。・・・(中略)・・・(対して)人材をマネジメントするとは、働き手の強みをうまく引き出すことを意味する。

・組織の狙いは、働き手の強みをテコにして生産性を高め、人材の弱みによる悪影響をかわすことにある。

4. 人材こそわれわれの最大の資産である

・経営者は「人材こそわれわれの最大の資産である」と好んで口にする。組織によって何か実質的な違いがあるとすれば、それは人材がどれだけの成果をあげるかだけだ。・・・(中略)・・・あらゆる経営資源のなかで最も活用度が低いのが人材であり、人材の可能性はほとんど埋もれたまま仕事に活かされていない。

・仮に会計上、人材が「設備投資」と扱われていたなら、人材に対する考え方は今とは大きく違っていたはずである。

・人材をマネジメントする方法

  1. 業務と働き手に責任を伴わせ、実績の上がる仕組みづくりをしなくてはいけない。
  2. マネジャーは部下たちを、自分の「情報源」「知恵袋」として扱わなくてはいけない。自身の業務について、部下たちに意見を求めるのだ。
  3. 適材適所の見極め

・成果の思わしくない人材も、往々にして、いや、おそらくたいていの場合は、「役立たず」ではない。仕事や職場との相性が悪いだけ、つまり場違いなだけである。・・・(中略)・・・どのような職場であれば生産性や効果をあげられそうかを考え、転身を勧めるのも、マネジャーの仕事である。

・これは、最初の一歩にすぎないとはいえ、経営者やマネジャーがたんなる人材マネジメントを超えて、リーダーシップを発揮して人材を率いていくための、きっかけとなるはずだ。