P.F.ドラッカー『マネジメント 第20章』【要約】

‐第20章 サクセスストーリー:日本企業、ツァイス、IBMまとめ‐

驚異的な実績を残した企業のケーススタディ。「権限」をまとめ上げるのではなく、「責任」を中心にまとめ上げることを通じてマネジメントを行うこと。

 

本章からの抜粋は以下とした。

1. 日本の生産管理 ~ 終身雇用

・(日本の研修や訓練の)背後にある目的意識や学習のあり方は、欧米、さらには儒教的伝統の強い中国とは全く異質である。儒教的思想は、欧米の発想に似て「何かを学ぶのは、これまでと違う、より大きな仕事に備えるためだ」という考え方を前提にしている。・・・(中略)・・・他方、日本の手法は禅に根差していると言えるのではないだろうか。そこでは、学習の目的は修養にあるあるとされる。

・二〇世紀に得られた学習についての知見は全て、禅の発想が正しく、儒教あるいは欧米流の発想は真の学習を妨げることを示唆している。

・研修の主眼は常に、より新しい方法でよりよい仕事をすることにある。

 

2. 弾力的な人件費 ~ IBM

・日本の制度の主にどこにわたしたちの関心があるかというと、(1)雇用と収入の保障、(2)適応力の高い労働力と弾力性に富んだ人件費、という一見したところ矛盾する二つのニーズをどう満たしているのか、という点である。

三井財閥の大番頭(筆頭社員)は、ひとつの大きな仕事、すなわちマネジャーの育成、選抜、世代交代を担ってきたという。・・・(中略)・・・日本のマネジャーは終身雇用に守られ、原則として解雇、配置転換はない。しかも、入社後の二〇年間はもっぱら年功序列によって昇進する。だからこそ、若手への配慮や育成が経営トップの第一の務めになったのだ。

・日本の組織すべてに共通する短所は、派閥を形成することである。

・日本の組織は、軍隊を除く欧米のあらゆる組織と比べて、途方もなく独裁色が強い。・・・(中略)・・・にもかかわらず、トップダウンの威信は、ボトムアップの責任と常につり合いが取れている。・・・(中略)・・・組織のあらゆる階層において、部下たちも意思決定に加わり、その責任の一端を担うように期待される。

IBMの経営陣は、雇用を守るのが自分たちの務めだと心に決めた。そのためには、道はどう見てもひとつしかない。新しい市場を切り開くしかないのだ。

3. 教訓

・以上のようなサクセスストーリーの要点は何だろうか。日本企業、ツァイス、IBMの独自の取り組みは何か。そして他の企業が取り入れているにもかかわらず、これらの企業が避けている施策は何か。

・日本企業、ツァイス、IBMはいずれも、「懐の深いマネジメント」とは無縁である。

・これらは、「民主的なマネジメント」の具体例とは言いがたく、もとより「参加型民主主義」とはほど遠い。

・今日では「寛容さ」「参加型民主主義」などが、あたかも万能であるかのように唱えられており、労働と働き手のマネジメントにまつわる理論は、権限をいかにまとめ上げるかに力点を置いている。

・だが、日本企業のリーダーたち、ツァイスを率いたアッベ、IBMを率いたワトソン・シニアは、責任をまとめ上げることを通して、労働とその担い手をマネジメントした。