‐第19章 仕事と労働:その理論と現実 まとめ‐
仕事上の人間関係は互いの尊重の上に成り立たなくてはならず、その際、マネジャーは各種理論の正しさではなく「自分の状況には何が適しており、今の状況で自分はどのように仕事と部下をマネジメントすればよいのか」を問うべきである。昔ながらのアメとムチはもはや頼りにならない。新しい仕組みでは弱者なども想定して、命令や心遣いのような安心材料をも提供しなくてはならない。実際、このような組織は存在し、吟味することも可能である。
本章からの抜粋は以下とした。
1. X理論とY理論 ~ マズローによる批判
・X理論においては、人々は怠惰で働くのを嫌うため、アメとムチをうまく使い分けながら働かせなくてはいけない。・・・(中略)・・・対照的にY理論は、人間には働きたいという心理的な欲求があり、達成感や責任を求めている、との考えに基づく。
・しかし現実は、マグレガーの信奉者たちが主張しているよりも、あるいは信じているよりもはるかに複雑である。そもそも、Y理論は単独ではあまり意味をなさない。
・人間の本質については、何らかの理論を揚げれるほど多くの事柄がわかるかどうかは、いまだ不明である。これまでのところ、それができると納得するだけの根拠は全く得られていない。
2. マネジャーにとっての現実とは何か?~「大きな恐怖」と「小さな恐怖」
・X理論とY理論のどちらが科学的に妥当であるかを論じるのは、まったくむなしい。マネジャーが問うべきは、「人間の本質については、どちらの理論が正しいか」ではなく、「自分の状況にはどちらが適しており、今の状況で自分はどのように仕事と部下をマネジメントすればよいのか」である。
・重要な事実を述べよう。X理論にもとづく従来のマネジメント手法、すなわちアメとムチを使い分けるやり方は、もはやうまく機能しない。・・・(中略)・・・行動心理学の最新成果が示しているとおり、大きな恐怖は人々に何かを強制する力となるが、わずかな恐怖が残った場合、それは怒りや反発を生むだけである。
3. 効きすぎる「アメ」
・物質的な報酬というアメは、恐怖のムチとは違い、威力を保っている。それどころか、あまりに威力が強すぎるため、運用には慎重さが求めれらる。効きすぎてかえって頼りにしづらいのだ。
・仕事へのモチベーションを高めるのに必要な物的報酬は、等比級数的に増えていく宿命にある。・・・(中略)・・・経済的インセンティブは、報酬というより権利としての性格を強めている。
・収入が最低限の生活には困らない水準を上回ると、絶対額に対する不満よりも、相対的な収入への不満の方がはるかに強い感情として噴き出す。
4. アメとムチに代わるものはあるか?
・昔ながらのアメとムチに代わる新しい動機付け要因を探るのは、合理的であるばかりか心躍る取り組みだと思われる。このような新しい動機付け要因は、「心理面での啓蒙専制主義」としてすでにマネジャーに与えれれている。
・このような心理的統制のもとでは、命令に代えて説得が試みられる。説得に乗らない人は、おそらく病的、未熟、あるいは心理療法の必要あり、などという烙印を押されるであろう。
・心理的圧政は、啓蒙的であろうとなかろうと、心理学の著しい乱用である。・・・(中略)・・・他者をコントロール、支配、操作するために心理学を駆使するのは、知識の乱用に当たり、自滅を招きかねない。専制の中でも、とりわけ激しい嫌悪を引き起こす形態でもある。
・仕事上の人間関係は互いの尊重の上に成り立っていなくてはいけない。ところが心理的圧政の底流には傲慢さがある。・・・(中略)・・・「マネジャーだけが健全で他は誰もが病んでいる」と想定している。・・・(中略)・・・これらはどれも、浅はかな傲慢さの表れである。
・では何がうまく機能するのだろうか?・・・(中略)・・・マネジャーは、仕事を成し遂げて働き手の達成意欲を満たすのが自分の務めだと、今以上に認識しなくてはいけない。・・・(中略)・・・アメとムチはもはや頼りにならない。新しい仕組みでは、弱者などを想定して、X理論における命令や心遣いのような安心材料をも提供しなくてはならない。
・このような組織はどういった姿をしているのだろうか?・・・(中略)・・・この種の組織は存在するし、じっくり吟味することが出来る。
読書会はじめました↓